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八百万の楽器 Part-3 



チェロ弾きにバイオリンやビオラの評価やご意見をお伺いすると、おもむろに膝や椅子の上にちょこんと楽器を載せてチェロのように楽器を立てて試奏を始める。興が乗るとチャルダーシュなどを披露してくれる人もいるが「器用だなぁ、持ち方違うけど」などと呑気に眺めていてはならない。擦弦楽器はもともと立てて弾いていたのであってこちらの持ち方のほうが正統で古く、1000年以上の歴史がある。人として自然な構えであるとも言える。


弓奏は10世紀のイスラム圏各所でほぼ同時期に行われるようになったと言われている。ヨーロッパにおける最も古い記録は、ムーア人の影響下にあったスペインの修道僧ベアートス(Beatus)によって920年から30年に書かれた文書で、挿絵が遺っている。弓はスペインやシチリアに伝わった当初は武器の弓のようにU字であり、弓弦で弦を擦って音をだしていた。古い東方の持ち方の特徴として楽器を身体に対して立てて構えるというのがあって、ヨーロッパに伝わってしばらくの間は楽器を立てて構えていたようだ。10世紀以前にも同じような形をした撥弦楽器はヨーロッパに存在しており、10世紀に入って弓による弓奏が導入されたというのが識者の見解である。

バッハマンによれば弦は中国など東方では古来シルクを使い、それがアラブ圏の文献にでてくるようになるのは800年以降のことだという。ヨーロッパや近東など西側ではガットを使っていて、古くはエジプトの出土品の中からリュートに張られていたガット弦が見つかっている。インドは宗教上ガットは用いず、中東ではシルクとガットの両方を用いたことが文献に記されている。楽器は幾つか典型的な形があるものの、演奏をする人が思いのままに作った為に様々なものが作られた。多くの場合ネックまで一体型の一木造りで中をくり抜いた共鳴箱に表板を貼った簡素なもので、洋ナシ形のレベックやチェロに似たウトゥガルドンなどほぼ形を変えずに現在まで伝わるものがある。14世紀には表板にスプルース(カラ松)やファーウッド(トド松)を使うと良い音がするということが既にわかっていたらしい。見た目は異なるものの、ようやく現代のバイオリンやビオラに通じる何かが形にならんとするのがこの頃である。


ちょうどこの辺りのことを調べているとコンバス弾きのKさんが以下の動画を送ってくれた。自分にはチェロを抱えて立って弾く姿とベアートスの挿絵の天使たちがリンクして見えて仕方がない。色々大きく変わってはいるものの一歩引いて見れば大して変わっていないようにも見える。



参考文献・画像:THE ORIGINS OF BOWING and the development of bowed instruments up to the thirteenth century:WERNER BACHMAN

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